のんちゃんとの出会いは約1年前だから2017年だった。

 

その頃、僕はひどく心を病んでいて元気がなかった。のんちゃんは当時17歳だった。彼女の笑顔はまぶしく明るかった。

 

だからと言って僕は彼女に淡い恋を抱くなんてことはなかった。僕はもう30過ぎだ。そんな簡単に一目ぼれしていたら心臓に悪い。

17歳ののんちゃん

のんちゃんとは仲のいいグループで何度も飲むようになっていった。だいたい月に1度だろうか、10人弱のグループの飲み会にのんちゃんも来ていた。やっぱりのんちゃんの笑顔は明るくまぶしかった。

 

ただたまにのんちゃんは急に視線を落とすことがあった。そのときののんちゃんの視線は、僕がぞっとするほどだった。僕が覗いたことがないくらいに深い奈落の底を見ているような瞳だった。

 

でも、すぐにのんちゃんは明るくなって、わーい!なんて騒いでいた。だからあまり気にしていなかった。

 

のんちゃんとはそうやってワイワイ騒ぎながら1年くらい過ごしてきた。

 

10代の女の子らしく、恋人も何人か変わったようだ。恋人が一人もいなかった僕はそのフットワークの軽さに羨ましいなぁと思っていた。

 

そんなのんちゃんが2018年の年末に一人暮らしを始めた。彼女は18歳になっていた。

 

ということでのんちゃんは僕らを新しく越したアパートに招待してくれた。ただグループのみんなはなぜかあまり行きたがらなかった。理由はよくわからなかったけど、とりあえず僕は行くことにした。

 

結局、彼女の引っ越しパーティー?には僕を含め4人が集まった。

 

のんちゃんの引っ越し祝い

お酒を飲んでゲームをしているうちに、だんだんと話題があけっぴろげになっていった。

 

のんちゃんは「このベッドでは3人とやって、そのマットレスでは4人とやった」と笑ながら告白した。まだ引っ越してから1か月しか経っていないのにだ。

 

僕は単純にショックを受けた。どうやったら1か月の間に7人の別々の男とセックスができるのかがわからなかったからだ。

 

参加者のうちの一人が翌日の予定があるということで帰った。残ったのは、僕と20代の男とのんちゃんだった。

 

3人だけになると、のんちゃんは100人斬りをしていると暴露した。20代の男はなんとも呆れているというようだった。

 

のんちゃんは自分でも驚いているという風にあっけなく笑っていた。

 

僕の頭はクラクラしていた。

 

どうやったら18歳で100人の男と交われるのだろう?確かにそういう話は聞いたことがあるし、100人斬りという言葉も知っていた。

 

ただそういうことって成人雑誌やAVの世界のフィクションだと心のどこかで思っていた。想像上では存在するけど、実在なんかしないもののように思っていた。

 

でも、今目の前にその子がいた。のんちゃんだ。

 

しかも僕は彼女と1年余り一緒にいて全然そんなこと気づかなかった。

 

100人斬りとデリヘル嬢

思えば、僕が終電を気にして帰るのに、のんちゃんは気にせずタクシーで帰るといつも言っていた。

 

2駅以上離れている区間を10代の女の子がタクシーで帰るのだ。彼女のアルバイト先は知っていた。時給900円のサービス業のバイトでどうやってタクシーで帰るのだろう?なんて深く考えなかった。

 

結局、のんちゃんはデリヘル嬢だった。もう一人の男が源氏名も教えてくれて、のんちゃんは「店長の一押しとしてサイトのトップページに載っている」とも教えてくれた。

 

のんちゃんは少し後ろめたそうに教えてくれた。もう一人の男はマジウケるみたいなノリでのんちゃんのデリヘル嬢について話していた。

 

僕の目の前がグラグラ揺れ出し、気分が悪くなってきた。

 

あんなに明るい笑顔ののんちゃんが100人斬りでデリヘルで働いている。そういえば深海を覗き込むような暗い視線はこういうことだったのか。

 

また、のんちゃんはそんな話をした後に「お母さんが聞いたら悲しいよね」なんて言う。

 

真っ当な感覚だ。

 

というか、その前に、知り合いの姪っ子と甥っ子の動画を見ながら「かわいい」と何度も言っていた。僕もそれを見てかわいいと思った。のんちゃんは子供が好きなのだ。

 

そういう真っ当な感覚で、デリヘルや出会い系でよくわからない男に抱かれまくるっているのだ。

 

そういえば、その日も突然「見てみて!」と言って、落とし穴に落とされた無数の豚がガソリンで丸焼けにされる動画を僕らに紹介してきた。

 

コッポラじゃあるまし、とジョークにもならないことを僕は思った。『地獄の黙示録』はフィクションでも、のんちゃんは今を生きる18歳なのだ。

 

のんちゃんとセフレ

結局、のんちゃんはその20代の男ともやっていた。

 

いつも飲む他のメンバーには言わないで、僕だけの秘密にしてくれと2人から言われた。できれば、僕にも秘密にしてほしかった。

 

のんちゃんと男は、僕に秘密を打ち明けたことで明らかに肩の荷がおりたようで、目の前でいちゃつき始めた。

 

ちなみに、2人ともそれぞれ別に恋人がいる。20代の男は彼女と同棲もしている。

 

のんちゃんは、バイトが終わった彼氏がLINEに返信しないことに苛立っていた。なんで既読にならないの?!と何度もスマホを見ては落胆していた。

 

そんなのんちゃんの横では、すでにセフレになっている男がいる。男は「うるせー」とか「別にいいじゃねーか」とか言っている。そして頻繁にのんちゃんを「ブス」と言う。

 

ただ、そのセフレの男が今夜のんちゃんとやろうとしていることは明白だった。のんちゃんもそれはわかっているようだった。

 

同棲している彼女がいて、また一方ではLINEの返信が来なくてもだえるような彼氏がいても、この後この2人はセックスをするのだ。

 

僕は何のためにいるのか?というと、彼らの罪悪感を少しでも減らすためにいるだけなのだ。

 

小惑星群のクラッシュ

僕はもうどうすればいいのかわからなかった。

 

自分のプライドを回復すべきなのだろうか?

のんちゃんのことを悲しむべきなのだろうか?

男について腹を立てればいいのだろうか?

 

ただ一つわかったのは、僕がこれまでいた世界にはそういうことはなかったということだ。そしてその薄っぺらい境界線を越えた先には、確かにそういう世界があるのだ。

 

僕は、自分の中に突然やってきた、100人斬りのデリヘル嬢と同棲中のセフレ持ちをなかなか適切なポジションに置くことができなかった。

 

異世界から来た、その二人の影響力は巨大だった。突然現れた超新星が、元々あるささやかな小惑星群を飲み込んでいくように、僕の精神は均衡を失った。

 

とりあえず、僕はその場所から帰った。彼らは秘密を打ち明けて満足しているようだったし、そろそろやるべきことをやりたい雰囲気が濃厚になってきたからだ。

 

帰りがけ、彼らはアパートを出て僕を見送ってくれた。そういうエチケットはあるのだなぁと僕は一層頭を抱えて困惑しながら真夜中家に帰った。

 

英語の勉強の休止と再会

そういったわけで、僕は頭の中がごちゃごちゃになり、英語の勉強ができなくなった。

 

のんちゃんは100人斬りのデリヘル嬢。

あの同棲している虚弱そうな青年はセフレ持ち。

 

1年以上彼らと接してきてたせいで、そのギャップがどうしても僕の中になじまない。

 

仕方なく僕は、銀杏BOYZの『援助交際』を何度も聞いた。峯田和伸が僕の気持ちを代弁してくれていた。1週間で何十回も聞いて、仕事中も頭の中で鳴り響いていた。

そして結局は、僕にとっては100人斬りもデリヘル嬢もセフレ持ちもフィクションになった。

 

結局、僕の前ではのんちゃんは素敵な笑顔を見せてくれていて、男は少し虚弱そうなコミュ力の高い青年だった。

 

そして僕はぼくなのだ。

英語を勉強しようと思った。

 

ということで、英語の勉強を再開します。

 

追記

のんちゃんのその後の話