サ○イ引越センターでのアルバイトは3月からだった。全ての授業を終えて、教室を閉めための後片付けを作業をしながら働いていた。

 

前回までの話「親友が死んだその後の話

 

引っ越しのアルバイトと聞くと、肉体労働の極致みたいなイメージがあると思う。

 

しかし、実際の引っ越しのアルバイトはそれとは少し違った世界だった。

ノーフューチャーな世界

まず何よりも印象に残っているのが、引っ越しをしていると未来なんて考えられなくなる、ということだ。

 

実際、引っ越しにおいて僕らには未来なんて全く知らされないのだ。

 

まずその支社ではアルバイトの出勤日は決められていなかった。だから前日の朝に電話して、仕事があれば出勤して、もしもなければまた後日、ということになる。

 

つまり翌日の引っ越しの仕事量(何台トラックが出るか)によって、アルバイトの出勤は決まるのだ。ということは社員であるドライバーも翌日に割り当てられる仕事を前日まで知らないのだ。

 

前日に、翌日の引っ越しの件数に合わせてドライバーを決め、朝電話をかけてきたアルバイトをトラックに割り振って、その日の夕方以降に配車が決定する。

 

ドライバーは一日の仕事を終えてへとへとになってやっと、次の日の仕事がわかる。と言っても、午前の仕事の進捗によって割り振られるので、午後については引っ越しの件数のみわかっているだけで具体的には何もわからない。

 

こんな状況だから、アルバイトなんて何もわからないのだ。前日に仕事があるのはわかっても、翌日に自分がどんな仕事に放り込まれるのかわからない。

 

しかも、仕事量はそのドライバーで全く異なる。

 

引っ越しのドライバーたち

まずトラックは小型のものと、その倍くらいの大きさの中型(2トン)のものと、さらにその倍の大型(4トン)のものがある。

 

当たり前だけど、小型の方が楽で、4トンはしんどい。それなのにアルバイトの給料はどこに振られても変わらない。

 

さらにドライバーが怠け者の場合もあるし、アスリート並みの運動量の場合もある。怠け者のドライバーにあたると作業中怠けるのでアルバイトの負担が増える。

 

一方でアスリート並みのドライバーも困りもので、彼らに合わせて働くと新人は即潰れる。団地の5階の引っ越しでさえ、彼らは全く止まらずに動き続け階段を往復していく。そりゃあ普通の人は一発で潰れる。

 

またドライバーの性格も十人十色だった。まともな人もいたけど、一風変わった人の方が多かった。だからその支社にはNG制度があった。つまりこの人のトラックには乗りたくないとNGを出したり、こいつは自分のトラックには乗せられないとNGを出すのだ。

 

NGを出されるドライバーはほぼ決まっていた。アルバイトや新人の社員を人として扱わないドライバーだ。まさに絵に描いたようなハラスメントをするドライバーがそこにはいた。

 

今まで塾業界でもひねくれた人はいたけれど、こんなに酷いもんじゃなかった。自分が幸せな職場にいたのだと痛感した。

 

懸命に生きる若者たち

さらに、そんな世界に高卒で18歳から飛び込んでいる子もいる。自分の18歳の頃はまだ予備校にいた。全く違う世界で懸命に生きている若者が確かに存在した。

 

しかも若い彼らは真っすぐで笑顔も多く、仕事もいろいろなことを教えてくれた。

 

おそらく20代を経てベテランになっていく過程で、そういう気持ちが擦り減っていく仕事なんだと思う。

 

毎日の仕事は他の仕事と比べても明らかに重労働だ。にもかかわらず仕事の割り当ては前日にしかわからず、明日は何が待っているかわからない。またアルバイトや新人社員はどんどん入れ替わり、教えたそばから辞めていく。そういうのを10年以上目の当たりにしていたら、そりゃあ擦り減るものがある。

 

僕は10代や20代前半の若い社員とよく会話をしたが、彼らが5年もしたら今のベテランと同じように寡黙でネガティブになってしまうのかと思うと少しだけ悲しくなった。まぁどうなるかなんてわからないんだけど。

 

そんな感じで僕は3月から11月まで引っ越しのアルバイトをしていった。もちろんミスもしたし、怒られたことは数えきれないし、ドライバーに嫌味も何度も言われた。

 

それでも11月頃にはある程度仕事ができる助手になっていて、最初は話しかけてさえくれなかった社員とも普通に会話ができるようになっていた。

 

仕事が楽しくなってきたので、とりあえず来年の春まで続けて一年間この仕事を見守ってみようかと思っていた。同じ作業でも季節によって全く違う印象がある仕事だったからだ。

 

そんなとき、とある事件が起こった。その結果、僕は引っ越しの仕事を辞めて、別の仕事を選ぶことになった。

 

それはまた次にお話します。